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2023.06.08

前歯遠心牽引時における2-step(2段階牽引)とEn-Masse(一括牽引)の比較


◯前歯部の遠心への牽引方法

1. 2-Step retraction

その名の通り、2段階で前歯を遠心に移動させる方法です。

抜歯症例の場合、まず犬歯を遠心に移動させ、後方の臼歯部領域に接触するまで牽引を行います。

その後、4前歯を後方に牽引します。ProffitやRothらは犬歯を後方領域に組み込むことで、固定歯を増やした状態で前歯の牽引を行えることから臼歯部の固定保護の観点で本方法は有意であると述べました。

しかし、2段階で歯を移動させるため、その分治療期間が長くなる可能性についても述べています。

2. En-Masse retraction

犬歯を先行して牽引することなく、6前歯を一括で遠心に牽引する方法。

先述の2-step retractionでは、犬歯の遠心移動後に整直を図ったりする必要があり、メカニクスが煩雑となる可能性がありますが、本方法はメカニクスが比較的簡便であるため、近年広く普及しております。

今回、上記の2つの方法にどのような差異があるのか調査しました。

◯固定歯の保護について

同じ加強固定装置を用いて2-step retractionとEn-Masse retractionの移動について調べた過去の研究では、2つの方法において固定歯の保護に統計学的に有意な差は認めませんでした。1),2)

2つの方法を比較している他の研究も散見しますが、多くはEn-Masse retractionには矯正用アンカースクリュー(TAD)を使用しています。

◯治療期間

2つの方法を比較した研究のうち2本の論文で治療期間に統計的に有意な差を認めました。 2つの論文においてEn-Masse retractionを用いた群の治療期間は平均4ヶ月程度短いものでした。3),4)

症例やメカニクスにもよりますが、En-Masse retractionを使用できる症例では治療期間をやや短縮できる可能性があります。

◯まとめ

今回の結論として

  • 両者のどちらかが優れていると決定づけるエビデンスは乏しい。
  • 固定の保護に関して差がないと結論づけた報告もあるが、移動歯が増える分、En-Masse retractionを使用する場合はT.A.D.の併用が必要であると考えられる。
  • バイトコントロールが必要な症例(過蓋咬合)などでは6前歯を一括で移動させるより、犬歯と切歯との間にスペースが生じていたほうが咬合挙上が円滑に行える可能性がある。
  • 日本人は叢生が多い人種であり、前歯部をアライメントする前に犬歯を遠心に移動させスペースを作る必要のある症例が多く見られる。そのためEn-Masse retaractionの使用が適切と思われる症例は多くないと思われるが、叢生が少ない症例に関しては治療期間を短縮することが可能かもしれない。

と考察します。

今後もより詳細な調査、研究が必要と考えます。

私たちIOSでは、エビデンスに基づいた正しい知識と正確な情報を皆様にご提供出来るよう、これからも発信いたします。

参考文献

1) Randomized clinical trial comparing control of maxillary anchorage with 2 retraction technique. American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics November 2010

2) En Masse Retraction and Two-Step Retraction of Maxillary Anterior Teeth in Adult Class I Women: A Comparison of Anchorage Loss. Angle Orthod (2007) 77(6):973-978

3) Assessment of changes following en-masse retraction with mini-implants anchorage compared to two-step retraction with conventional anchorage in patients with class II division 1. Eur J orthod.2014 Jun;36(3):275-83

4) Root shortening in patients treated with two-step and en masse space closure procedures with sliding mechanics. Angle Orthod 2010 May;80(3):492-7

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