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2022.12.01

矯正治療とインプラントの歯槽骨結合(オッセオインテグレーション)との関係について


矯正治療を効率的に行うために、インプラントアンカー(矯正用スクリュー「TAD」)を使うことは近年一般的となり、その臨床的なエビデンスも年々増している状況です。


しかしながら補綴用インプラントを使用した矯正治療について、その効果や臨床結果についてはエビデンスが少なく各専門医においてもあまり議論が進んでおりません。

そこで今回いくつかの論文を調査し、補綴用インプラントが含まれる歯列において、最適と考えられる咬合形態について考察を行いました。


インプラントと天然歯の解剖学的な違い

天然歯の歯根は、歯槽骨との間に歯根膜が存在しその歯根膜がショックアブソーバーとなって咬合力を減衰させています。咬合力は最大で60 kg(論文によっては100 kg)と非常に大きく、その力を一体化した歯列が受け止め、歯根膜が力の緩衝帯となることで咬合の安定を保っています。一方インプラントは歯槽骨とインプラント体が直接結合しており(オッセオインテグレーション)、歯根膜が存在しません。そのためインプラントで受けた咬合力は歯槽骨に直接伝わり、歯槽骨内で力が分散されます。このように天然歯とインプラントでは解剖学的に大きく異なるため、天然歯のみの歯列とインプラントを含んだ歯列では咬合形態自体について、どのような咬合が最適であるのか検討する必要があります。


咬合がインプラントに与える影響

咬合力が非常に大きい場合、インプラント脱離(インプラント周囲の骨吸収)の原因となる可能性があると考察する論文も多く、また偏った咬合(安定しない咬合)によってインプラントに強い咬合力が掛かることで、インプラント周囲炎を引き起こし、結果的にインプラント脱離に繋がるとする論文もあります。


矯正力がインプラント脱落の原因になる可能性

しかしながら補綴用インプラントが広く使用されている現在において、インプラントを含む歯列について理想的な咬合はどうあるべきなのか?矯正専門医はどのような点に注意して治療を行うべきなのか?このような疑問に対し、臨床的な確固たるエビデンスが乏しいのが現状です。特に、インプラント補綴物が既に存在する歯列の場合に、不正咬合を根本的に改善し、且つ2年以上に及ぶ矯正治療中に複雑な力(咬合力・矯正力)がどのようにインプラントに影響を及ぼすかについての議論は進んでおりません。

咬合力は歯槽骨や顎体にどのように影響するのか、またどのような咬合が理想的であるのか、歯科矯正の分野では長く研究されてきた分野です。補綴学的、歯周病学的な観点のみでなく、歯科矯正学的観点から、適切な咬合形態について論文を精読し、安定的な咬合形態の推奨案についてIOSにて検討しました。

IOS にて定めた包括的歯科治療の理想咬合 (12 keys to ideal occlusion) を原案とし、歯列、歯槽骨、周囲筋との協調により安定を計ることはもちろん、インプラントの解剖学的特異性により補綴設計(被せ物の形態)を変更する必要があります。

具体的には、

・天然歯よりもインプラント補綴物の咬合面を狭くする

・咬頭傾斜角度を緩くする

・最大咬合位で天然歯よりもインプラント補綴物は咬合接触点を軽く、小さくする

などが挙げられます。



今後も包括的矯正歯科研究会(IOS)では最新の研究論文を査読し、根拠に基づいた矯正歯科治療の正しい知識と情報を発信していく所存です。



1) Rachel A. Sheridan, et al. The role of occlusion in Implant therapy: a comprehensive updated review. Implant Dentistry; 2016; 25:6


2) Mavrogenis AF, et al. Biology of implant osseointegration.

J Musculoskelet Neuronal Interact; 2009; 9(2): 61-71


3) Hillam DG, et al. Stresses in the periodontal ligament.

J Periodontal Res; 1973; 8: 51-56


4) Frost HM. A 2003 update of bone physiology and Wolff’s Law for clinicians.

Angle Orthod; 2004; 74: 3–15.


5) Kozlovsky A, et al. Impact of implant overloading on the peri-implant bone in inflamed and non-inflamed peri-implant mucosa. Clin Oral Implants Res; 2007; 18(5): 601-610


6) NIH Consensus development panel on osteoporosis prevention, diagnosis, and therapy.

J Am Med Assoc; 2001; 285: 785 – 795


7) Kuroshima S, et al. Structural and qualitative bone remodeling around repetitive loaded implants in rabbits.

Clin Implant Dent Related Res; 2015; in Press

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