口を開けたり閉めたりするとカックン、もしくはゴリゴリと音がする、口を大きく開くと痛みがある、もしくは十分に口が開けられない…。これらは「顎関節症」の症状です。症状の重さは人それぞれですが、場合によっては硬いものが噛めない、大きいサイズの食べ物が食べづらい、大きなあくびが出来ないといった症状が現れることもあります。
顎関節症の原因は?
今までは「顎関節症は噛み合わせが原因」と考えられていましたが、現在では情動系※に主な原因があるということが明らかになりました。
具体的には以下のような原因があります。
・日常的に歯ぎしり、食いしばりをしている
・精神的なストレス(緊張や不安、気分の落ち込み)を感じる
・硬い食べ物を好んで食べる習慣がある
・その他に癖がある(片方の歯で噛む、等)
*情動とは:怒り、恐れ、喜び、悲しみなど、比較的急速に引き起こされた一時的で急激な感情の動きのこと
矯正治療と顎関節症は無関係である
矯正歯科の先進国であるアメリカの矯正歯科学会(AAO)で、歯の矯正と顎関節症の因果関係について見解を出していますが、矯正治療の内容や結果に関わらず「矯正治療が顎関節症に影響を及ぼすという根拠は無い」と公式に発表されています。また、歯科医師向けの診療ガイドラインにも上記の内容を記載しています。
つまり、矯正治療は顎関節症に害は無いと明確に示しています*。
*この報告内容は、矯正専門医によって行われた上下顎のワイヤー矯正装置(マルチブラケット装置)で行なった矯正治療に限り調査させれた結果であり、マウスピース矯正や部分矯正に関しては調査されておりません。
顎関節症の治療では、噛み合わせの治療は第一選択ではない?
噛み合わせと顎関節症状を切り離して考える必要
2010年に米国歯科研究学会(AADR)が「顎関節症の基本治療の原則」を発表ししました。現在日本顎関節学会、日本補綴歯科学会もこの考え方を取り入れています。
要約すると、
「顎関節症の基本治療は、患者さん自身の癖や精神的なストレスからくる問題のある行動に原因がある。そのため行動認知療法や理学療法、マウスピースなどを主体とした保存的な治療が原則である」とされています。
つまり、顎関節症症状の多くはマウスピースの装着や、カウンセリングによる患者さん自身の注意や意識で改善する、ということです。
ただし、難治性の場合、患者さんがご自身の嚙み合わせへの違和感や強いこだわりを感じ矯正治療を含む嚙み合わせの治療を行ってしまうと、逆に症状が複雑化してしまうことがあります。
難治性の顎関節症治療には、心療内科など歯科以外の専門分野と連携し、多角的に診断し治療を行うことがとても大切となってきます。
顎関節症の患者さんは、矯正治療が出来ないのか?
顎関節症の症状が改善していない状態での矯正治療は基本的に行う事が出来ません。しかし症状が改善している場合は、矯正専門医による矯正治療は可能であると私たちは考えています。現在顎関節症の症状にお悩みの方は、顎関節症や矯正治療に対する専門的な知識を含めた包括的な対応、他の科との連携が可能な歯科医へご相談されることをお勧めします。
私たち“包括的矯正歯科研究会(IOS)”は、国際的エビデンスに基づき、矯正歯科治療の正しい知識と正確な情報を一般の方々から歯科医師まで幅広い層へ向けて発信してまいります。
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参考文献
1. Clinical Practice Guidelines for Orthodontics and Dentofacial Orthopedics. American Association of Orthodontics
2. Chales S Greene et al. Orthodontics and the temporomandibular joint: What orthodontic providers need to know. Quintessence International 2017;48:799-808.
3. 顎関節症治療の指針2018 日本顎関節学会
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*医学情報には様々意見が存在しております。我々が配信している医学情報は、IOSが医学的視点から独自に解釈した私見が含まれます。予めご了承下さい。
▼執筆者
なんぽ歯科クリニック新百合ケ丘
院長 南保 友樹
昭和大学歯学部卒昭和大学歯学部矯正学教室入局
昭和大学歯学部矯正学科大学院卒
日本矯正歯科学会認定医IOS 矯正専門医チーム
Teeth Alignment The Specialist 会長