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2019.10.19

矯正治療で抜歯するのはなぜ?


矯正歯科治療で歯を抜く?抜かない?


 矯正歯科治療を希望される患者様の歯並びには様々な種類があります。ガタガタが強い「叢生(そうせい)」、出っ歯といわれる「上顎前突」、受け口といわれる「下顎前突」などです。

症状の違いが生じるのは、歯の大きさや顎の骨の大きさや「歯槽骨」と呼ばれる歯の根っこが埋まっている骨の大きさが人それぞれ異なるからです。

矯正歯科治療では、症状の程度によっては永久歯の抜歯を行い、歯並び、噛み合わせを治療する場合があります。



歯を抜く矯正・抜かない矯正の歴史的背景

 矯正歯科治療において歯を抜いて治療するべきか、抜かずに治療するべきかは100年以上前より長らく議論されてきました。近代歯科矯正学の父であるエドワード・アングル博士とC・Sケース博士との間で1911年に起こった「抜歯論争」は歯科矯正学の歴史の中でも最も有名です。


 この他にも1925年にランドストーム博士が「歯槽基底論」という概念を発表しました。この概念は「歯槽骨の大きさは歯科矯正治療によって拡げることはできない」というものです。

 しかし「抜歯論争」と「歯槽基底論」のどちらも時代的背景があり、科学的な根拠に基づくというよりは、宗教的で哲学的な側面を含んでいるものだったのです。



現在の流れは?


 ヨーロッパ矯正歯科学会(EOS)では、抜歯・非抜歯の決定に関して「矯正歯科医は宗教的・哲学的な考えに影響を受けることなく、個人個人に合った診断および診療を行うべきである」と発表しています。さらに、顎の大きさなどの観点から「欧米人と比較してアジア人では抜歯が必要な患者の割合は増える」と述べています。

 つまり現在では患者さんそれぞれに合った治療計画の立案が重要である、との見解が主流となっているのです。



非抜歯治療(顎の拡大)にはリスクは無い?

 

 近年、非抜歯矯正を謳い、幼少期から必要以上にマウスピースや床装置による顎の拡大を行なっているケースがしばしば見られます。もちろん歯並びの状態によっては拡大が必要な場合もあります。



  しかしながら、無計画で不適当な拡大は様々なリスクを伴います。代表的なものだと、歯茎が下がり、歯の根っこが見えてしまう「歯肉退縮」があります。歯肉退縮は矯正治療後も5年間に渡って進行するという報告もあり、非常に注意が必要です。

また、拡大した後の安定性に関する事例だと、混合歯列期(乳歯と永久歯が混ざっている時期)に拡大した症例のうち、治療後に良好な歯並びを維持していたものはわずか10%しかなかったとの報告もあります。


抜歯・非抜歯の判断基準


 矯正歯科治療の検査では「セファログラム」と呼ばれる顔全体のレントゲン写真を撮影します。セファログラムは診断を行う際に非常に重要で、頭の骨に対する上下の顎の位置や大きさ、歯の生えている角度などを分析することが可能です。

1940年代、ツイード博士が治療後の安定性を基にして下顎の前歯の角度の治療目標を設定し、抜歯・非抜歯の判断を行いました。


 現在では、抜歯・非抜歯の決定は下記の項目を詳細に分析し、総合的に判断しています。

・歯並び(デコボコ、出っ歯、受け口など)の状態

・噛み合わせの状態

・歯1本1本の状態(欠損が無いか、予後不良の歯が無いか、親知らずは無いか、等)

・上下前歯の傾斜角度(出具合、引っ込み具合)

・上顎、下顎それぞれの顎の大きさと上下のバランス

・横顔のバランス(顔全体の長さ、鼻の高さ、口唇の突出度)



どの歯科医院で矯正治療を受ければいいの?


 矯正歯科治療を行う歯科医院は多数あるため、どこで治療を受けるか迷われる方は多いでしょう。選ぶポイントとして、「絶対に歯は抜きません」もしくは「必ず抜歯をします」といった一方的な治療計画ではなく、精密な検査および分析に基づいた治療計画を立案し、詳細で丁寧な説明を行う歯科医へ相談されることをお勧めします。

 

私たち包括的矯正歯科研究会(IOS)は、国際的なエビデンスに基づき、矯正歯科治療の正しい知識と正確な情報を一般の方々から歯科医師まで幅広い層へ向けて発信してまいります。


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*医学情報には様々意見が存在しております。我々が配信している医学情報は、IOS学術委員が医学的視点から独自に調査した私見が含まれている可能性があります。予めご了承下さい。

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参考文献

1. いつ、なぜ、Angleは非抜歯論に転向したか 福原達郎 昭歯誌14:1-4,1994

2. Malocclusion of the teeth regarded as a problem in connection with the apical base. International Journal of Orthodontia, Oral Surgery and Radiography, Volume 11, Issue 12, December 1925, Pages 1109-1113.

3. Extractions, retention and stability: the search for orthodontic truth. European Journal of Orthodontics, Volume 39, Issue 2, April 2017, Pages 109–115.

4. Mandibular arch length increase during the mixed dentition -Postretention evaluation of stability and relapse. American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics, Volume 97, Issue 5, May 1990, Pages 393-404.

5. Development of labial gingival recessions in orthodontically treated patients. American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics, Volume 143, Issue 2, February 2013, Pages 206-212.

6. The frankfort-mandibular plane angle in orthodontic diagnosis, classification, treatment planning, and prognosis. Volume 32, Issue 4, April 1946, 175-230.

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▼執筆者

IOS & Teeth Alignment The Specialist 学術チーム

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