ブログ

2021.01.30

デジタル矯正・アライナー矯正歯科治療の落とし穴





 近年、矯正歯科の分野にデジタル化の波が押し寄せています。

様々な歯科の分野でデジタル化は進んでいますが、矯正歯科の分野においては、その治療の特性上、ほぼ全ての工程においてデジタル技術の導入が進んでおります。

しかし、デジタル化によって便利になる一方で、認識しておかなければならないこともあります。




「マウスピース矯正」「アライナー矯正」とは?





 「マウスピース矯正」もしくは「アライナー矯正」というものをご存知でしょうか。

最近では世間的にも認知度が上がっていますが、手軽さと目立ちにくさから、急速に世の中に浸透している矯正装置のひとつで、デジタル技術の進歩に伴い発展してきました。

これはコンピュータ上で歯の動きをシミュレーションし、そのシミュレーション結果に沿ってマウスピースを削り出すといったものです。

患者さんは、そのマウスピースを決められた順番通りに装着するだけで矯正治療を行うことが出来ます。


手順として、まずは歯科医院を受診し、歯型取りを行い、歯科医師による治療計画の立案、歯の移動をシミュレーションして、マウスピースを発注する、という流れです。



 しかし海外では「歯医者飛ばし」と言って、歯科医院を介さずに自分で歯型取りを行い、後日自宅にマウスピースが届く、というサービスが登場しています。

「DIY矯正」という呼ばれ方をしていますが、簡便である代わりに当然のことながら問題も多く存在します。

その最たるものとして、歯科医師によるきちんとした治療計画が立てられていないことが挙げられます。





 矯正医が診査・診断によって治療計画を立てていないために、かえって噛み合わせが悪くなってしまったり、予定よりも大幅に時間がかかってしまったりすることもあります。

また、マウスピース矯正が大きく発展してきた理由として、歯の表面に付ける「アタッチメント」という突起があります。

様々な形態のアタッチメントが存在し、これによってより自由度が高い歯の移動を行うことができるようになりました。

DIY矯正ではこういったものを付けられないため、ごくごく軽微な歯のデコボコにしか使用することができません。


 最近では日本でも「歯医者飛ばし」に近い、簡便にできるマウスピース矯正が出回り始めています。最初の歯型取りのみ歯科医院で行い、通院が最初の一回で済むものや、低価格を売りにしたものなどがあります。

こういったものも当然、軽微なデコボコにしか使用することができませんし、その治療計画にも疑問が残ります。

無理をして治療を進めることで、トラブルに繋がることも考えられます。






日本矯正歯科学会の見解は?


最近では、セカンドオピニオンや再治療を希望する患者様が後を絶たないといった現状があることも見逃せません。公益社団法人 日本矯正歯科学会からは以下のような注意喚起がなされています。




1)インターネット上で、歯科医師が介在しない形でマウスピース型製品が販売され、歯列の改善への有効性を謳うケースが出てきています。矯正歯科治療は、正確な診断や精密な治療計画に立脚して行われるべき医療行為であり、誤ったマウスピース型製品の使用は予期せぬ大きな問題を引き起こす可能性があります。患者自身の独自の判断でこれらの製品を使用し歯の移動を行うことは、歯科医学的にも非常に危険であるため絶対に避けてください。

2)マウスピース型矯正装置による治療には、利点・欠点を踏まえた適応症の判断や専門的知識を要することから、大学病院等や学会が認める基本研修機関において十分な矯正歯科領域全般にわたる基本的な教育と臨床的なトレーニングを受けた歯科医師による診察、検査、診断を基に治療を行うことを推奨します。


※「公益社団法人 日本矯正歯科学会 ポジションステートメント マウスピース型矯正装置による治療に関する見解」より抜粋



「海外カスタムメイド矯正装置の使用にあたっての遵守事項」 
1. 海外カスタムメイド矯正装置は、日本国の薬事法上の医療機器および歯科技工士法上の矯正装置に該当しないことを患者に説明すること。 
2. 海外カスタムメイド矯正装置以外に日本国の薬事法上の医療機器および歯科技工士法上の矯正装置による治療方法が存在することを、患者に十分説明すること。 
3. 海外カスタムメイド矯正装置を用いた治療を行う歯科医師は、個人の全責任において使用すること。 
4. 海外カスタムメイド矯正装置の使用に当たり上記内容を患者に十分な説明の上、理解と同意を得て同意書を作成すること。 
※「カスタムメイド(マウスピース型等)の矯正装置の注意事項」より抜粋


 デジタル化によって治療の幅が広がり、矯正治療も皆さんにとってより身近なものになってきました。

しかし快適さや簡便さばかりを追求してしまうことで、「治療」という観点で見た際に大事な部分が軽視されてしまうのが、我々矯正医にとって最も残念なことであります。

正しい知識を身につけて、悔いの残らない矯正治療をご受診ください。


<参考資料>

公益社団法人日本矯正歯科学会 ポジションステートメント マウスピース型矯正装置による治療に関する見解 http://www.jos.gr.jp/news/2019/0605_13.html

アライナー型矯正装置による治療指針

http://www.jos.gr.jp/medical/file/aligner_pointer.pdf

公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会 https://www.jpao.jp/15news/1525trendwatch/vol23


——————————–


▼執筆者

平沼 貴大

歯科医師

TK海浜幕張デンタルクリニック 副院長

https://tk-dental.jp/

元AQUA日本橋DENTAL CLINIC 副院長

​神奈川歯科大学卒​

​東京SJCD会員

IOS Board Member

戻る