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2021.05.22

歯周炎の新分類について


 2017年、歯周炎についての新たな分類が設定されました。矯正治療とは歯に荷重をかけて歯槽骨や歯肉といった歯周組織の中を移動させることによって、個人にとって理想的な咬合機能や審美性を与える治療です。そのため、歯周炎と矯正治療は密接な関係を持っており、歯周炎についても考慮した歯の移動が必要です。歯周炎の状態(歯周組織の状態)を無視した矯正治療は非常に危険です。


 過去の調査によると矯正治療をしたいと考えている患者様の6割ほどに、中等度の歯周炎が存在していると言われています。このような「歯並び以外の問題を持った」患者様の矯正治療を安全に行うために、今回は歯周炎の病因、新たな分類、矯正治療の適切な開始時期についてご説明したいと思います。

1.歯周炎の病因について


 有名な研究の一つに、ハロルド・ロー(Harald Loe)教授らの研究があります。この研究は歯学部の学生に口腔清掃を中止させ、歯肉炎の進行と口腔細菌の種類および菌数を調査したものです。この調査によって、歯肉炎の状態が悪化するにつれプラーク内の細菌の組成が変化し、歯肉炎の発症および進行に細菌が大きく関与していることが示されました。


 また、歯周炎の発症に大きく関与すると言われているP.gingivalis、T.denticola、T.forsythensisの3菌種は総称してRed complexと呼ばれ、過去にはこれらの菌がいると必ずといっていいほど歯周炎に罹患すると考えられていました。しかし、P.gingivalisのみを感染させたマウスでは歯周炎が発症しなかったという実験結果が出ました。


これにより、細菌の変化だけではなく、細菌の変化に伴う宿主の免疫反応の変化も歯周炎の発症には大きく関与しているのではないかということが示されるようになりました。

2.歯周炎の新分類について


 1.の病因の部分でご説明した通り、歯周炎の発症・進行には宿主の反応性が大きく関与することがわかり、これまでの歯周炎の分類を新たに設定する必要が生じました。


近年、宿主の状態の中で特に「喫煙」および「糖尿病」が歯周炎に関与すると言われています。歯周組織の状態だけでなく、この宿主の状態をも考慮に入れたものが2017年に示された歯周炎の新分類です。


 新分類は、患者様の歯周炎の状態を数種類の検査結果からステージ(I〜Ⅳ)の4段階に分けるだけでなく、さらに喫煙・糖尿病・過去からの歯周炎の進行状態などをグレード(A,B,C)として3段階で分類することにより患者様個人に対する歯周炎の罹患しやすさ、進行しやすさを評価することができるようになりました。


 ただし、ここで注意しなければならないこととして、この分類は患者様が来院した時に持っていた歯周炎のリスクや複雑さを表すものであり、歯周炎が寛解した後のメンテナンスでも最初の歯周炎の複雑さを考慮しなければなりません。よって、最初に決定されたステージは、歯周炎が寛解したとしてもステージが下がったりすることはないということです。



3.矯正治療の適切な開始時期



上述した通り、新分類のステージは最初の状態から変化することはありませんので、残念ながら「どのステージになったら矯正治療を開始していい」という指標として新分類を使用することはできません。

それでは、歯周炎に罹患した方はいつになったら矯正治療を開始できるのでしょうか。


 過去の報告を見ると、

・歯周治療を行なった後3ヶ月

・歯周治療を行なった後6ヶ月

・歯周治療を行なった後1年

・口腔清掃状態が良好になった後

・プロービングと呼ばれる検査後歯肉からの出血が全体の25%以下になってから


など様々で、現在科学的根拠のある矯正治療開始時期は示されておりません。ただ、ここで重要なのは歯周炎は基本的には歯肉炎から進行して生じる、ということです。


 歯肉炎について多くの基礎研究が行われていますが、どのように歯周炎に進行するのか、どのような歯肉炎が歯周炎になりやすいかは未だわかっていません。そこで、歯肉炎を早期に発見し、それに対する処置など歯肉炎のコントロールを行なった後で矯正治療を開始・進めて行くことが安全に矯正治療を行う上で重要となるのです。さらには矯正治療中も定期的に歯周組織の状態を検査することが必要となります。

【参考文献】

・the World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Condition 2017.

・Orthodontic treatment in periodontal patient: The use of periodontal gold standards to overcome the “grey zone”. Journal of Periodontology 2019


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