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2021.09.24

歯科矯正用アンカースクリューを併用した急速拡大(MARPE)における考察




現在、上顎歯列を拡大する方法は様々あります。

19世紀後半から使用が始まった「上顎拡大装置」。その後、多くの矯正歯科医師が臨床応用し、装置のデザインも徐々に改良を重ねて現在でも世界中で用いられています。



中でも最も多く使用されている「床矯正」とよばれる取り外し式の装置。これは、歯に弱い力をかけて歯を傾斜させ、歯列を拡大することができます。

この方法の場合、上顎の歯を傾斜させ下顎の歯とバランスが取れる程度であれば問題はありませんが、大きく拡大すると土台の骨よりも外側に歯を大きく傾斜させてしまう恐れがあります。その場合の長期的予後は、歯槽骨にダメージを与え、歯列が安定せず、歯肉退縮などの問題を起こす可能性があり、注意が必要です。

また、顎整形力を加え正中口蓋縫合を離開し、上顎の幅径を拡大できる「急速拡大装置」というものもあります。

こちらは基本的に顎顔面の各種縫合が癒合する前の10歳~15歳位までの若年者が適応となります。そのため適応年齢以降は、加齢とともに正中口蓋縫合の離開は非常に難しくなるだけでなく、歯に固定源を求める装置の構造上、歯の傾斜、歯根吸収、歯肉退縮、後戻りなどの矯正歯科治療において望ましくない反作用が生じる可能性があります。



従来は上記2種類の方法を用いることがほとんどだったのですが、近年では歯科矯正用アンカースクリューを急速拡大装置の固定源にして正中口蓋縫合を離開するMicro-implant assisted rapid palatal expander(以下,MARPE)の報告が見られるようになってきました。


ここでひとつ、2021年6月 AJO-DOにて掲載された論文をご紹介します。



【Micro implant assisted rapid palatal expansion

vs

surgically assisted rapid palatal expansion

for maxillary transverse discrepancy treatment.】

【スクリューを併用した急速拡大(MARPE)

vs

外科的処置を併用した急速拡大 (SARPE)

この違いを比較、検討した】




〈方法〉

4mm以上の片側あるいは両側の交叉咬合が認められる歯並びで

【MARPE】歯科用CBCTを用いてスクリューを併用した急速拡大 17名

【SARPE】外科的処置を併用した急速拡大15名

治療前後で比較、検討しました。


〈結果〉

MARPEはSARPEと比較し、より顕著な骨の拡大が認められた。

MARPEはSARPEと比較し、平行に拡大が認められた。

MARPEはSARPEと比較し、急速拡大による頬側傾斜の量が少ないことが認められた。

MARPEの使用により鼻腔付近は大きく拡大された。

 上気道により良い影響を与える可能性が認められた。


従来の外科的な処置では、成長が終了した大人において拡大が必要な場合、上顎の骨を切って拡大する方法がとられてきました。しかし、この方法は入院をし、全身麻酔下で骨切りを行うため患者さんへの負担がかかります。


それに対して歯科矯正用アンカースクリューを用いた場合は、局所麻酔で骨格的な拡大を可能なため、患者さんへの負担が軽減します。さらには、30代以降の患者さんでも上顎骨の拡大が可能となりました。


また、上記結果の②MARPEはSARPEと比較し、平行に拡大が認められた。においては、上顎前方牽引装置などを使用する骨格性Ⅲ級症例(受け口)に対して、facemask使用前にMARPEを行うことで上顎骨の抵抗を減らすことができるため、より拡大の効果が発揮される可能性が示唆されました。


以上より、成人の矯正治療を行う上でMARPEは有用性が高く、治療のバリエーションが増える可能性があると考えられます。



【スクリューを併用した急速拡大(MARPE)症例】


After

Before


症例写真提供:東京日本橋AQUA歯科・矯正歯科包括CLINIC

       https://www.aqua-kyousei.com/


私たち包括的矯正歯科研究会(IOS)は、国際的なエビデンスに基づき、矯正歯科治療の正しい知識と正確な情報を一般の方々から歯科医師まで幅広い層へ向けて発信してまいります。


参考文献

1) Angell EH : Treatment of irregularity of permanent or adult teeth. Dent Cosmos,1:540-544,1860.

2) MOSS JP : Rapid expansion of the maxillary arch, part Ⅱ. J. P. O,

2:215-223,1968.

3) Garib DG, Navarro R, Francischone CE, Oltramari PV : Rapid maxillary expansion using palatal implants. J Clin Orthod, 42:665-71,2008.

4) Cibele BO, Priscila Ayub, Ingrid ML, Wilson HM, Selly SS, Dirceu BR, Ary SP :Microimplant assisted rapid palatal expansion vs surgically assisted rapid palatal expansion for maxillary transverse discrepancy treatment. AJO-DO, 159, 733-742, 2021.



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