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2022.02.09

口腔筋機能療法(MFT)の矯正治療における有効性について



 口腔筋機能療法(MFT)とは「指しゃぶりなどにより二次的に生じた舌突出癖や口呼吸により弛緩した口唇を舌や口唇の訓練によって調和のとれた状態に改善する方法」と定義されており、これまでに様々な研究報告がされています。

今回はMFTの矯正治療における有効性についての見解が述べられた研究報告をいくつかご紹介します。


舌に対するMFTの有効性とは?


舌に対するMFTの有効性を考察した論文1)によると「舌突出が思春期以降も認められ、かつ不正咬合や発音障害が認められる場合、MFTが有効である」と述べられています。舌突出が幼児期に見られるのは異常ではないものの、成長後も残存し発音障害を伴う場合は言語治療士による言語治療を行うとともに舌位に対してMFTを行い、不正咬合を伴う場合は矯正医が矯正治療を行うと同時にMFTを行うのが望ましいとされています。


開咬症例の矯正治療の後戻りに対してMFTは有効?


次に、開咬症例の矯正治療の後戻りに対するMFTの有効性について報告した論文2)によると「開咬患者の矯正治療にMFTを併用した場合と行わない場合で後戻りを評価したところ、矯正治療とMFTの併用が前歯部開咬の閉鎖及び正常な舌位と嚥下の獲得により後戻りの防止につながり、MFTを「矯正治療後」よりも「矯正治療中」から開始したほうがより有効であった」と結論付けています。


顎関節症に対してもMFTは効果がある?


顎関節症に対するMFTの効果についての論文3)をご紹介します。


一般的に顎関節症の治療ではスプリント治療を行います。顎関節症の原因の一つに口腔顎顔面の筋機能障害があることからMFTが有効であり、顎関節症患者に対しMFTを行ったところ


・下顎の可動性の向上

・筋痛、顎関節痛、頸部痛、腫脹、知覚過敏、クリックなどの臨床症状の改善

・OMESプロトコールによる口腔顎顔面の筋機能のスコアの改善


が認められました。これにより、MFTがスプリント治療より有効性が高いことが示されています。


また顎関節症とMFTに関連して、顎関節症に付随して起こる耳の症状に対してMFTの有効性を調査した研究4)においては、顎関節症患者に対しMFTを行った場合、顎関節症に付随して生じる耳の症状(耳痛、耳の腫脹、耳鳴りなど)がMFTを行った後において有意に小さくなったとの研究結果でした。このことからMFTは顎関節周囲の筋の調和や顎関節症状の減少をもたらすだけでなく、耳の症状に対しても有効であると考察しています。

口呼吸にもMFTは有効?



MFT実施前後で筋電図を用いた評価についての論文5)をご紹介します。口呼吸の患者においてMFTが口腔周囲筋に及ぼす影響を歯性・言語・機能・形態的な評価及び筋電図評価を行ったところ、形態的評価としては下唇、オトガイ筋ともに改善し、機能的評価では、呼吸、咀嚼、嚥下ともに改善が認められました。

また、MFT実施前後で安静時と口唇閉鎖時の口輪筋、オトガイ筋の筋活動量の差を比較すると、有意差を示す被検者の数は減少していたことから、MFT実施後では口唇を閉鎖するために必要な筋活動量が減少したと考えられ、口呼吸患者では安静時において口輪筋やオトガイ筋などの口腔周囲筋の筋活動が小さいものの、MFTにより筋活動量を上げることで口呼吸や開咬の防止につながる可能性が示唆されました。


以上より、MFTの矯正治療における有効性を調べた研究報告では口腔周囲筋の機能の改善をはじめとしてMFTの有効性が高く示されていました。



今後も、包括的矯正歯科研究会(IOS)では、根拠に基づいた矯正歯科治療の正しい知識と情報を発信していく所存です。

参考文献)

1)William R. Proffit et al. Myofunctional therapy for tongue-thursting: background and recommendations. JADA; 1975; 90:403-11.

2)JoAnn Smithpeter et al. Relapse of anterior open bites treated with orthodontic appliances with and without orofacial myofunctional therapy. Am J Orthod; 2010; 137: 605-14.

3)Cláudia Maria de Felício, PhD et al. Effects of Orofacial Myofunctional Therapy on Temporomandibular Disorders. J Craniomandib Pract; 2010; 28:4,249-59.

4) Cláudia Maria de Felício, PhD et al. Otologic Symptoms of Temporomandibular Disorder and Effect of Orofacial Myofunctional Therapy. J Craniomandib Pract; 2008; 26:2,118-25.

5)D. SCHIEVANO et al. Influence of myofunctional therapy on the perioral muscles. Clinical and electromyographic evaluations. Journal of Oral Rehabilitation; 1999; 26:564-9.

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