MRIに描出される顎関節の骨変化において、下顎頭の成長発育のスパートは本当に存在するのかを、今回は見解が述べられた研究報告をいくつかご紹介します。
骨添加像を2種類を区別
顎の関節(下顎頭)においてMRI上に描出されるMR double contour像の出現と、成長発育のスパートの関連性を調べた論文1)によると、MR double contour像は下顎頭の骨改造像であり、顎関節円板の転位を整復した後に下顎頭に認められる骨添加像で、明瞭な2重輪郭像を呈するものと、下顎頭周囲に高信号の帽子状の像として描出される2種類が存在します。論文2)
それまでは、下顎頭周囲に見られる高信号の骨添加像は全てdouble contour像と呼んでいたのですが、論文1)では帽子状の骨改造像の方に着目し、それをdouble contour like structure像(DCLS)と命名し、2種類を区別しました。
研究結果
研究は、健常者9歳〜14歳:21人、15〜24歳:25人、25〜62歳:25人の計71名(9歳〜62歳)の下顎頭をMRI用いて観察をしました。検証した項目はdouble contour like structure像(以下DCLS)の有無と骨髄信号、そして上顎第二大臼歯の萌出との関連性です。
MRI上の骨髄信号は低年齢ほど脂肪が少ないため、(赤色骨髄)信号強度は低く、年齢が高くなるにつれ脂肪が増え(黄色骨髄)、骨髄信号は高くなります。
結果は、9〜14歳:42関節中17関節にDCLSが認められ、それ以上の年齢には認められませんでした。さらにその42関節をDCLS出現群(17関節)と未出現(absent)群(25関節)に分け、骨髄信号と上顎第二大臼歯の萌出との関連性を調べた結果、DCLS群の94%に第二大臼歯の萌出が認められませんでした。absent群の72%は黄色骨髄となっていました。
これらの結果から、DCLSは成長期の健常者に認められるもので、それは黄色骨髄になる前、上顎第二大臼歯が萌出する前に起こりうる生理的現象であり、それが画像上に描出されたものと示唆されました。またこのDCLSはその後消失することも確認されていることから、下顎頭の成長発育のスパート時に認められる骨改造像ではないかと考察されています。
整形外科領域では既に成長期の膝軟骨MRIに同様の高信号像が出現することが報告されており、医学会では膝の成長発育のスパートによる骨改造像と理解されています。
この論文を読んで、歯列の変化だと考えていた可撤式矯正装置(アクチベーター)の効果と使用時期についても検討が必要であると考えます。また、下顎頭の骨変化を double contour像 と double contour like structure像の2種類に区別して考察が必要と考えられ、臨床的にも研究的にも大変影響を受けた報告です。円板整復後の下顎頭には、この両者とも認められますが、Morimotoらが両者を区別した理由は、おそらくこれらは同じ下顎頭の骨化像ではあるものの、その画像所見の違いは骨化様式が異なるものと示唆したからだと考えられます。論文3)
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参考文献)
1) Morimoto et al. Detection and significance of the characteristic magnetic resonance signals of mandibular condyles in children.
Oral surg Oral Med Oral Oath Vol,97,No.2
2) K Yano, K.Nishikawa, T.Sano, T.Okano .Relationship between appearance of a double contour on the mandibular condyle and the change in articular disc position after splint therapy. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod 108(4): e30-4 ,2009 oct
3) 矢野圭介 西川慶一 佐野 司 岡野友宏 スプリント療法後にdouble contour像が出現した顎関節における治療前後のMR画像所見の変化 日顎誌、18:(3)181~186.2006